脳血管内治療の紹介

脳卒中センター長

石原 秀章(いしはら ひであき)

【学位】医学博士(防衛医科大学)
【専門医】日本脳神経血管内治療学会 専門医・指導医
日本脳神経外科学会 専門医
日本脳卒中学会認定 専門医

脳血管内治療は、カテーテルと呼ばれる管を四肢血管から頭頸部に誘導し、病変を治療します。局所麻酔でも可能ですが、細血管に器材が挿入された状態での体動は血管損傷のリスクがあり、繊細な処置は全身麻酔で行います。数mmの血管に異物を留置するので、感染や血栓症等に注意する周術期管理が重要です。当院血管内治療科は、2009年に埼玉国際医療センターの関連で発足、看護師、技師を含めた専門チームで、積極的に学会発表等行い研鑽しています。

主血管閉塞、血栓回収療法

大血管閉塞では、意識障害や麻痺が出現し、早期に再開通を得ないと、脳梗塞が完成され、出血も合併します。発症から4.5時間以内ならアルテプラーゼ(血栓溶解薬)を、24時間以内なら血栓回収療法の適応となります。発症時間が不明な時は、画像所見から判断します。埼玉県では、救急隊が脳卒中ネットワークを介して、適切な施設へ搬送します。当院では、血栓回収医4名、血管装置2台で、常時手術に備えております。

ステントを通過させるマイクロカテーテルの誘導は容易ですが、非描出部位へカテーテル誘導、ステント抜去は血管損傷のリスク(0-10%)があります。吸引カテーテルは手前から吸引するので安全ですが、大径のため誘導が困難です。血管損傷が少なく、血栓回収率の高いステントが海外で開発中です。

不整脈(心房細動)がある方は血栓が形成されやすく、アブレーションによる不整脈治療、血栓のできやすい左心耳の閉鎖が有用なのでご相談ください。

血管形成術、ステント留置術

不安定プラークによる塞栓(脳へ流れること)が頻発する場合は、狭窄率に関係なく手術適応があります。塞栓を予防するために、フィルターや血流遮断による吸引法を用います。

不安定プラークは、塞栓やステント閉塞が多く、血栓内膜剥離術(プラークの切除)が第一選択ですが、プラークを抑え込むマイクロメッシュステントが認可され、ステント治療も増加しています。

頭蓋内血管や、保険認可されたステントのない椎骨動脈起始部は、バルーンを用いた形成術を行い、拡張が不十分な場合にのみステントを用います。血管径が2.5㎜以上ある短い病変がよい適応で、バイパス術と異なり順行性の血流を増やせる長所があります。

脳動脈瘤塞栓術

動脈瘤は破裂によるくも膜下出血を起こす予後不良の病気です。プラチナ製の柔らかいコイルを用いて塞栓を行います。頸部の広いものはコイルが親血管に逸脱しないように、バルーンやステントを併用します。細血管での煩雑な手技は血栓症(2-15%)を合併するので、術前から抗血栓薬2剤を内服し、術後は1剤数か月を継続、ステント使用時は6か月以上内服します。破裂例では出血源処置後の開始となるため、ステントは血栓症のリスクから適応外となります。

展開のみで瘤を血栓化させるフローダイバーターは、5㎜以上径のある前中大脳動脈近位部や椎骨脳底動脈といった末梢血管にまで適応が拡大しましたが、脳出血(2-3%)、血栓症(5%)、遅発性破裂といった合併があり、従来の治療よりも良好な予後が見込める症例に選択します。パルスライダー(少金属のステント類似品)や、WEB(Woven Endobridge device;編み込んだ球)が日本でも試行されています。

硬膜下血種、硬膜血管塞栓術

外傷を契機に発症することの多い、脳周囲にある硬膜の下に貯留する血腫です。麻痺等の症状出現時には穿頭術で血液を排除します。再発の多い難治例や、抗血栓薬の必要不可欠例では硬膜血管塞栓術を行います。

エンボスフィア(固形)やNBCA(液体接着剤)を用いますが、液体は細いカテーテルで使用可能、末梢へ浸透しやすい反面、正常構造への迷入に注意します。血種は数か月で吸収され、再発はほぼ認めません。

脳血管奇形

脳動静脈奇形は、生来の動静脈の短絡により痙攣や出血を発症します。不完全塞栓では再発が多く、以前は摘出術や放射線治療の補助的役割でしたが、塞栓物質(オニキス)の進歩で、血管内治療単独における治癒率が向上しました。

NBCAは血液との接触で固体化するため数秒~分の注入となりますが、オニキスは緩徐に注入、時々休むことで進行方向が変わるため塞栓率が向上します。溶媒のDMSOが血管攣縮を起こすので緩徐な注入、注入量の上限があり、また放射線被爆の増加、カテーテル接着による抜去時の出血リスクもあります。

 

硬膜動静脈瘻は、外傷や静脈閉塞等が原因と考えられている後天的な動静脈の短絡です。拍動性の耳鳴り、眼球結膜充血/突出、出血、痙攣等、症状は多彩です。硬膜の細血管が集簇するため、動脈塞栓では6割の治癒率ですが、静脈塞栓で8割以上の治癒が見込めます。

オニキスが適応になり、バルーンで押さえながら、周囲の異常血管を閉塞する等、動脈塞栓術も治療成績が向上しています。

脳卒中は早期の治療が重要ですので、日頃の知識や検診が重要です。皆様の健康寿命を延ばせるよう、懸命に努力していきますので、些細なことでもご相談いただけると幸いです。今後ともよろしくお願いいたします。

脳卒中センター長
石原 秀章