整形外科担当医
上坂真司(うえさか しんじ)
股関節の痛みの原因として、関節が炎症を起こしてしまう「関節炎」が挙げられます。
なぜ、炎症が起きてしまうのでしょう?
どうして痛くなるのでしょう?
まずは股関節の仕組みや働きを知って、痛みの原因を理解しましょう。
【動画で見る股関節と関節炎】
股関節は、太ももの骨(大腿骨=だいたいこつ)の上の端にある骨頭(こっとう)という丸い部分が、寛骨臼(かんこつきゅう)という骨盤(こつばん)のくぼみに、はまり込むような形になっており、その構造上、脚をさまざまな方向に動かすことができます。
関節は、骨の表面がとても滑らかで弾力のある軟骨と呼ばれる組織でおおわれており、その軟骨が関節を動かしたり、体重がかかったときの衝撃をやわらげるクッションの役目をしています。
軟骨は耐久性があるものですが、年齢を重ねるにつれてすり減っていきます。
関節を守っている軟骨がすり減ることにより、徐々に変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)を発症します。
そして股関節を動かしたり、体重がかかるたびに、すり減った軟骨の下の骨同士がこすれ合って痛むようになります。
股関節の痛みの原因は、子供の頃の股関節脱臼(だっきゅう)や臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)といった障害によるものや、加齢や骨折によるものなどがあります。
骨折以外の症状は、長期間かけて徐々に進行し、痛みのために歩行が困難になることもあります。
変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)
股関節の軟骨が、磨耗や加齢によってすり減ることで起こります。
子供の頃からの先天性股関節脱臼(せんてんせいこかんせつだっきゅう)の後遺症や、股関節が浅い臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)などが原因となることが多いですが、加齢により軟骨が減ってしまうことが原因になることもあります。
症状としては、歩行時などに脚の付け根(股関節)が痛み、股関節の動きが制限されるようになります。痛みが強い場合は、人工股関節置換術や骨切り術を行うことがあります。
大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)
大腿骨の骨頭部分の血流が悪くなり、骨の細胞が死んでしまう(壊死)病気です。他の病気の治療で、ステロイドを大量に服用されている方やアルコールの飲酒量が多い方の発生率が高くなりますが、発症の原因が不明なこともあります。壊死が進行すると、大腿骨の骨頭や股関節が変形し、痛みも強くなります。 症状としては、変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)の方と同様ですが、痛みが強い場合は、人工股関節置換術を行うことがあります。
■主な症状の例
・ 骨折のため、痛みや腫れがある股関節の大腿骨側の大腿骨頚部の骨折です。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)などで骨がもろくなった状態で転倒した際などに起こりやすく、高齢者、特に女性に多くみられます。
骨折のため、痛みと腫れを伴い、歩行が困難になります。骨折の状態や位置により、治療方法は異なりますが、多くの場合は骨接合術や人工骨頭置換術などの手術を行います。
■主な症状の例
・ 骨折のため、痛みや腫れがある変形性股関節症は、時間をかけて進行し、次第に症状が重くなります。
一度傷ついた軟骨が回復することは難しいですが、早い段階から適切な処置を行うことで、進行を遅らせることができます。
このページでは、各段階での主な症例を紹介します。
あなたの痛みはどの段階でしょうか?
関節の軟骨が傷つき、関節のすき間がわずかに狭くなります。
股関節以外に、おしり、太もも、ひざが痛む場合もあり、変形性股関節症だと気づかないこともあります。
この時期の治療としては、主に、減量や痛み止めの内服などの保存療法が行われます。
■この時期の主な症状
・ 長時間の歩行や運動後などに痛みを感じる関節の軟骨が広い範囲で変性・摩耗し、関節のすき間が明らかに狭くなります。
レントゲンでは骨嚢胞(こつのうほう)や骨棘(こつきょく)が現れます。痛みが慢性化して、歩行にも支障をきたし始めます。
この時期の治療としては、軽い筋力強化訓練、薬物療法(痛み止め)、温熱療法のほか、疼痛が強い場合は,人工股関節置換術も行われます。
■この時期の主な症状
・股関節が動く範囲が狭くなる関節の軟骨がほとんどなくなるため、関節のすき間がなくなります。
レントゲンでは、股関節の著しい変形がみられます。
筋力が落ち、おしりや太ももが細くなり、左右の脚の長さが違ってしまうこともあります。
この時期の治療としては、人工股関節置換術が行われますが、痛みや歩行の大幅な改善が期待できます。
■この時期の主な症状
・動かさなくても痛い人工股関節置換術は、関節の痛みの原因であるすり減った軟骨と傷んだ骨を取り除いて、金属やプラスチックでできた人工関節に置き換える手術で、痛みの大きな改善が期待できます。
人工股関節は、金属製のカップ、骨頭ボール、ステムからできており、カップの内側に軟骨の代わりとなるライナーがはまります。
骨頭ボールがライナーにはまることで、滑らかな股関節の動きを再現できます。
【動画で見る全置換術】
人工股関節置換術は、近年、その技術も飛躍的に進歩し、日本国内で年間4万件以上の手術が行われる一般的な治療法になっています。
その一番の目的は、関節の痛みの除去です。さらに、ほとんど歩けなかった方が歩けるようになったり、外出困難だった方が旅行できるようになったりと、生活の質(QOL)の大きな改善が望めることもメリットです。
最近では、技術の進化により、従来に比べてより小さな切開で手術を行う最小侵襲手術法(MIS=さいしょうしんしゅうしゅじゅつほう)が可能になりました。この手術法の場合、皮膚はもちろん筋肉や靭帯(じんたい)の損傷を最小に抑えることができるため、手術後の回復が早まり、早期の歩行、社会復帰が望めます。しかし、最少侵襲手術法による人工股関節手術は、全ての方に対応できるものではなく、体格や股関節の損傷の度合いによっても異なります。また、回復期間には個人差がありますので、担当医師とよく相談しましょう。
歩行時の横ゆれも改善が期待できます
股関節疾患が原因で、左右の脚の長さが異なってしまうこともあります。
その場合、歩行時に大きく横にゆれたり、片脚を引きずって歩くなどの歩行障害が起こることもあります。
人工股関節手術では、このような歩行障害の改善も期待できます。
【股関節手術後3日後の様子】
手術後、15年経った方のうち、96%(*)以上の人工股関節は変わらず機能しています。さらに、医療用の生体適合性の高いチタン、超高分子ポリエチレン素材の開発などにより、幅広い年齢層に対応できるようになってきています。
※人工関節の耐用年数は個人の体重、年齢、活動レベルやその他の要因によって異なります。
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